氷川清話より 勝海舟
■今日の文章
世の中に無神経ほど強いものはない。あの庭前の蜻蛉をごらん。
尻尾を切って放しても、平気で飛んで行くではないか。
おれなどもまあ蜻蛉ぐらいのところで、とても人間の仲間入りは
できないかもしれない。
むやみに神経を使って、やたらに世間のことを苦に病み、
朝から晩まで頼みもしないことに奔走して、それが為に頭が禿げ
鬚が白くなって、まだ年も取らないのに耄碌してしまうと
いうような憂国家とかいうものには、おれなどはとてもなれない。
■読後ノオト(これは解説ではありません)
毒舌と言えば毒舌には違いない。
この口調、この調子。江戸前のべらんめえ調は、心地良い。
確かにいわゆる「大器」とは言えなかった人だと思う。
しかし、この人が本当に立派な人物、傑物と言っても良い
理由は、本人が自分自身を「大器ではない」と自覚して
いたことだと思う。
幕末から維新にかけて、殆ど信じられないほど、全国から傑物が
集まった時代にあって、自分自身の器をはっきりと自覚し、
その使命をはっきりと自覚して行動し、発言していたことが
勝海舟という男の清々しくも面白い点ではないかと思います。
そんな彼の持ち前の気性は、この文章にも十分に表れている
と感じています。


