梶井基次郎 簡潔な描写と詩情豊かな表現力
簡潔な描写と詩情豊かな表現力
■今日の文章■
私は好んで闇のなかへ出かけた。谷ぎわの大きな椎の木の下に立って
遠い街道の孤独な電灯を眺めた。
深い闇のなかから遠い小さな光を眺めるほど感傷的なものはないだろう。
私はその光がはるばるやって来て、闇のなかの私の着物をほのかに染
めているのを知った。
またあるとこでは谷の闇へ向かって一心に石を投げた。闇のなかには
1本の柚の木があったのである。
石が葉を分けてかつかつ崖へ当たった。ひとしきりすると闇のなかか
らは芳烈な柚の匂いが立ちのぼってきた。
■解説
人の言葉を借りるなら、簡潔な描写と詩情豊かな表現力と言いましょ
うか、こんな短い文章にも、その瑞々しさが満ち溢れています。
この文章は、あの「檸檬」を書いた梶井基次郎さんである。僅か32歳
で、志半ばで夭折した小説家です。
興味を持たれたなら、まずは「檸檬」を読み下さい。


