野上弥生子の文章
■今日の文章 このごろは暑いため短い厚司(あつし)になっているので、 下からだとひと目に見通される三吉のすらりとした両脚(あし)や、 青いさるまたをはいた、まだあんまりやせもしない娘のような むっちり...
チャンドラーの文章
■今日の文章 私たちは別れの挨拶をかわした。 車が角をまがるのを見送ってから、階段をのぼって、 すぐに寝室へ行き、ベッドをつくりなおした。 枕の上にまっくろな長い髪が一本残っていた。腹の底に 鉛のかた...
「ドクトル・ジバゴ」の文章
■今日の文章 日常の暮しは跡形もなく崩れ去って、あとに残ったのは、およそ非日常的な、 ものの役に立たない力、それこそ一糸まとわぬまで丸裸にされてしまった 魂の内奥だけなんだわ。 でも、この魂の内奥にと...
パール・バックの文章
■今日の文章 「いよいよ生まれるのだ」と彼女は言った。 「私は家に帰ります。私が呼ぶまで部屋へ入らねえでください。 新しく皮をむいた葦をするどく切って持ってきてください。 それでへその緒を切りますだ。...
オースティンの文章
■今日の文章 結婚の幸福は、まったく運次第ですもの。 お互いに気心がわかっていても、前もって似ていても、そんなこと でしあわせが増すってわけのものじゃないわ。 後でいくらでも似ていなくなってきて、お互...
失われた時を求めて プルーストの文章
■今日の文章 少したって、陰気に過したその日と、明日もまた物悲しい一日で あろうという予想とに気を滅入らせながら、私は無意識に、お茶 に浸してやわらかくなったひと切れのマドレーヌごと、ひと匙の 紅茶を...
内田ひゃっけんの文章
■今日の文章 生きているのは退儀である。しかし死ぬのは少し怖い。 死んだ後のことはかまわないけれど、死ぬ時の様子が、どうも面白くない。 妙な顔をしたり、変な声をだしたりするのは感心しない。 ただ、そこ...
変身の文章 カフカ
■今日の文章 ある朝、グレゴール・ザムがなにか胸騒ぎのする夢からさめると、 ベットのなかの自分が一匹のばかでかい毒虫に変わってしまっているのに 気づいた。 彼は甲羅のようにかたい背中を下にしてねており...
「断腸亭日乗」から 永井荷風
■今日の文章 余は五、六歩横町に進入りしが洋人の家の樫の木と余が庭の椎の大木 炎々として燃上り黒烟風に渦巻き吹つけ来るに辟易し、近づきて家屋 の焼け倒るるを見定めること能わず。 唯火焔の更に一段烈しく...
プーシキンの「思い出」
■今日の文章 おもいでが 音もなく ながい巻物をくりひろげる わたしは嫌悪のこころをもって おのれの生涯を読みかえし 身をおののかせ のろいの声をあげ なげきつつ にがいなみだを流す けれども悲しい記...
ディケンズの長い1文
■今日の文章 茫漠とした幼児期を、はるか遠くに振り返ってみると、 まず目の前にはっきり浮かんでくるのは、 綺麗な髪をして若々しい容姿の母さんと、 容姿などあったっものじゃないし、 目ん玉が真っ黒けだっ...
ジョージ・オーウェルの文章
■今日の文章 ナショナリストの考え方の中には、真実なのに嘘、知っているのに 知らないことになっているという事実が、いろいろある。 知っている事実でも、認めるのに耐えられないというので脇へ押し のけられ...
アントン・チェーホフの文章
■今日の文章 人間は物を考える理性と、物を創り出す力とを、天から授かっています。 それでもって、自分に与えられているものを、ますます増やして行け という神様の思し召しなんです。 ところが、今日まで人間...
「カラマーゾフの兄弟」より ドストエフスキー
■今日の文章 「神」がほんとうに存在するということがふしぎなのじゃなくって、 そんな考えが、・・・神は必要なり、という考えが、 人間みたいな野蛮で意地悪な動物の頭に浮かんだということが 驚嘆に値するの...
赤?それとも黒? スタンダール
■今日の文章 さて、諸君、小説というものは大道に沿うてもち歩かれる鏡のような ものだ。 諸君の眼に青空を反映することもあれば、また道の水溜りの泥濘を 反映することもあろう。 すると諸君は、鏡を背負籠に...
フランス文学きっての短編の名手登場 モーパッサン
■今日の文章 彼女は自分と夫のあいだに何かしら1つの幕を、何か1つの障害物を 感じていた。 二人の人間が決して魂までは、心の奥底までは、たがいにはいりこむ ものではないということに、生れて初めて、気が...
名探偵の推理力 コナン・ドイル
■今日の文章 ここに医者らしいタイプの紳士がいる。だが、どことなく軍人風のところ もある。だから軍医にちがいない。 顔はまっくろだが、手首が白いところを見ると生まれつき黒い訳じゃない。 とすれば、熱帯...
芥川龍之介の「相聞」
■今日の文章 また立ちかへる水無月の 嘆きを誰にかたるべきき。 沙羅のみづ枝に花さけば、 かなしき人の目ぞ見ゆる。 ■読後ノオト(これは解説ではありません) 洗練された感覚と鋭敏な知性。 書かれたもの...
イプセンの文章
■今日の文章 物を書くとは、いったい、どういうことを言うのでしょうか? 近頃になってやっとわかったのは、書くというのは、もともと 見るということだ、ということです。 ただし、・・・いいですか・・・見ら...
モームの文章
■今日の文章 良心というものは、それぞれ個人の中にあって、社会がそれ自体を 保持するために発展させてきた法則の番人なのだ、と私は思う。 我々がその法則を破らないように見張るために配置された、われ われ...
マダム・ボヴァリーは、私だ。
■今日の文章 誰だって、自分の欲望、思想、苦痛を正確に示すことなど出来ない。 そして、人間の言葉は割れ鍋のようなもので、これをたたいて、 み空の星を感動させようと思っても、たかが熊を躍らすくらいの 曲...
当代の名文家 石川淳
■今日の文章 文人画の芸術家にとって、写生とは単にデッサンの稽古ではなかった のだろう。 技術の練磨は生活の発見につながる。 芸術と生活との可能性はひとしく天地山川の間に求められるべきもの であり、一...
ツルゲーネフの小説
■今日の文章 君はぼくのいまやっているkとを見ていることだろう。 かばんのなかにすきまができたから、そこに乾草をつめこんで いるんだ。 僕らの人生のかばんもそんなものだよ。 すきまがないように、なんで...
ヘルマン・ヘッセ ヘッセの真面目な文章
■今日の文章 僕は夜、どこかで打ち上げられる花火ほどすばらしいものはないと 思うんだ。 青い色や緑色に輝いている照明弾がある。それが真っ暗な空にのぼ っていく。 そうしてちょうど一番美しい光を発すると...
オノレ・ド・バルザック 人間喜劇!人間喜劇!
■ページ1■今日の文章 パリはまことに大海原のようなものだ。そこに測鉛を投じたとて、 その深さを測ることはできまい。 諸君はこの海洋をめぐり、それを描きだそうと望まれるだろうか。 それをめぐり、かつ描...
アガサ・クリスティ 名探偵ポアロかく語りき
■ページ1■今日の文章 会話において、何かをかくしているものほど、危険なものはないよ! あるフランスの老賢人が私にいったことがある。 話というものは、考えることを妨げるための、発明だ、とね。 そしてま...
ウンベルト・エーコの名作「薔薇の名前」
■ページ1■今日の文章 書物はしばしば別の書物のことを物語る。 一巻の無害な書物がしばしば一個の種子に似て、 危険な書物の花を咲かせてみたり、 あるいは逆に、 苦い根に甘い実を熟れさせたりする。 ━━...
アルベール・カミュ 今日、ママが死んだ・・・。
■ページ1■今日の文章 不条理という言葉のあてはまるのは、この世界が理性では 割り切れず、しかも人間の奥底には明晰を求める死物狂い の願望が激しく鳴りひびいて、この両者がともに相対峙した ままである状...
バージニアウルフ 意識の流れを表現する小説
■ページ1■今日の文章 人々の眼、闊歩、足踏み、とぼとぼ歩き、怒号と喧騒、馬車、 自動車、バス、荷車、足をひきずり体をゆすぶって歩く サンドウィッチ・マン、ブラズ・バンド、手風琴、頭上を飛ぶ 飛行機の...
武田泰淳 生き恥をさらした男 司馬遷
今日の文章 司馬遷は生き恥をさらした男である。土人として普通なら 生きながらえるはずのない場合に、この男は生き残った。 口惜しい、残念至極、情けなや、進退きわまった、と知り ながら、おめおめと生きてい...
魯迅 時代背景という文脈の中で読む。
■今日の文章 私も若いころは、たくさんの夢を見たものである。あとでは あらかた忘れてしまったが、自分でも惜しいとは思わない。 思い出というものは、人を楽しませるものではあるが、時に は人を寂しがらせな...
村上春樹 貧乏な叔母さんの話
貧乏な叔母さんの話 中国行きのスロウ・ボート ■今日の文章 世の中はきっと失われた愛や、失われそうな愛で充ちている のだろう。 「さて、あなたには貧乏な叔母さんなんて一人もいない」と 彼女は言葉を続け...
田中康夫 なんとなくクリスタル
なんとなく、で良い訳ありませんよね、知事! ■今日の文章 淳一と私は、なにも悩みなんてなく暮らしている。 なんとなく気分のよいものを、買ったり、着たり、食べたりする。 そして、なんとなく気分のよい音楽...
D.H.ロレンス 空に突き上げる潮のように!
空に突き上げる潮のように! ■今日の文章 翌日彼女は森へ出かけた。 曇った、静かな午後で、暗緑色の山藍(やまあい)が 榛(はしばみ)の矮林の下に拡がっていた。 すべての樹木は音も立てずに芽を開こうとつ...
菊池寛 生活第一、芸術第二
生活第一、芸術第二 ■今日の文章 芸術のみかくれて、人生に呼びかけない作家は、象牙の塔に かくれて、銀の笛を吹いているようなものだ。 それは十九世紀ころの芸術家の風俗だが、まだそんな風な ポーズを欣ん...
ホフマンスタール 作家が見る天才画家の魂
作家が見る天才画家の魂 絵から絵へと眼を移しながら、ぼくはある何かを感じるとることができた。 形象と形象とが交互に入りまじり、並びあい、色のうちに形象の奥にひそむ 命がほとばしり、色と色とが互いに生か...
アレクサンドル・プーシキン 国民的詩人が書く文章とは?
国民的詩人が書く文章とは? おもいでが音もなく ながい巻物をくりひろげる。 わたしは嫌悪のこころをもって おのれの生涯を読みかえし 身をおののかせ、のろいの声をあげ なげきつつ、にがいなみだを流す。 ...
谷崎潤一郎 「文章読本」
谷崎潤一郎 「文章読本」より 谷崎潤一郎の文章読本読む意義は、日本語を愛して止まない人間から見た 日本語の美しさを余すところなく感じることが出来る安心感にある。 彼の個性は決して尋常なものではなかっ...
スタインベック 土のにおいがする
土のにおいがする。 ■今日の文章 壁を作り、家を建て、ダムを建設し、そして壁、家、ダムのなかに、 そこばくの人間自身をそそぎこむこと、そして人間自身に、壁、家、 ダムの力をそこばくでも取り入れること、...
本当に宮沢賢治は今日が誕生日?
本当に宮沢賢治は今日が誕生日? ■今日の文章 まことのことばはうしなはれ 雲はちぎれてそらをとぶ ああかがやきの四月の底を はぎしり燃えてゆききする おれはひとりの修羅なのだ ■解説 ミューズから...
ビクトル・ユーゴー 文豪は地下道に詳しい!!
文豪は地下道に詳しい!! ■今日の文章 人間の歴史は下水溝渠の歴史に反映している。 死体投棄の溝渠はローマの歴史を語っていた。 パリの下水道は古い恐るべきものであった。 それは墳墓でもあり、避難所でも...
ニコライ・ゴーゴリ わずか 43 年の人生そのものが皮肉だったのかも
わずか 43 年の人生そのものが皮肉だったのかも ■今日の文章■ いま熱情を燃えさかっている青年が、もし自分が老いさらばえた後 の姿を見せつけられたなら、恐れおののいてとびすさることだろう。 柔軟な青...
梶井基次郎 簡潔な描写と詩情豊かな表現力
簡潔な描写と詩情豊かな表現力 ■今日の文章■ 私は好んで闇のなかへ出かけた。谷ぎわの大きな椎の木の下に立って 遠い街道の孤独な電灯を眺めた。 深い闇のなかから遠い小さな光を眺めるほど感傷的なものはない...
中井正一 二つの魂の誕生とは?
二つの魂の誕生とは? ■今日の文章■ 一体人間は、二つの魂の誕生をもっているといえよう。 世界がこんなに美しく、世の中がこんなに面白いものかと驚嘆する時がある。 これが第一の誕生である。 そしていつか...
二葉亭四迷 「くたばって死ね」と言われた男
「くたばって死ね」と言われた男 ■今日の文章■ 誠に人生は夢の如しといふうちにも、小生の一生の如きは夢よりも 果敢なくあわれなるものなるべし。 かくして空想に入りて一生を流浪の間に空過し、死して自らも...